2012年1月11日水曜日

こそっと研の活動/2010年度

活動2年目である2010年度は、笹川科学研究助成※を受け、前年度に来館者調査を試行させていただいた伊丹市昆虫館で、乳幼児連れ来館者の利用実態調査と、展示利用支援ツールの試作・検証をしました。

対象は、0~2歳児とその保護者。改めて0~2歳児を“お客さん”として見直してみようという訳です。


※博物館の子育て支援機能に関する研究―乳幼児連れ来館者のための展示、教育普及事業の企画手法の開発― (坂本昇)





●利用実態調査
7月にモニターさん6組(母+子3組、父母+子3組。父母の年代は20~40代)に協力いただき、昆虫館の館内で見学などする様子の観察調査と、見学後のインタビュー調査を実施。インタビュー調査で、私たちが知りたいことを引き出すための質問項目を決めるのに苦労しました。

11月には伊丹市内の育児サークルさん(1~2歳児とその母(全員30代)7組)にご協力いただき、昆虫館を親子で利用してみた感想等をアンケートで答えてもらいました。質問項目は、7月のモニター調査の時とほぼ同じです。

調査では、まず、昆虫館での体験と親子の日常を関連付ける基本的な情報として、
・昆虫への興味・日ごろの関わり
・子どもと一緒に過ごしてうれしい・楽しいこと
などを整理。

それから、昆虫館で過ごす中での子や親の行動・気持ちを明らかにしました。
・子どもの「楽しい」「うれしい」:
歩くこと・のぼりおり、モノの受け渡しでコミュニケーション、人(特に親)と一緒のことをする
・子どもの発達段階と関係する特徴的な行動:
同じことを繰り返す、発見や体験を親に報告・確認、日頃慣れているモノは受け入れやすい、カラフルな色に反応する、目線が低いので床に目が行きがち
・親の「楽しい」「うれしい」:
子どもの成長を確認、子どもと共感・親子で楽しい、ちょっと一息つける、家庭ではできない体験・知識、親自身の新たな発見、親同士の交流
・親の「困った!」(昆虫館利用の課題):
展示位置が高い・抱っこがつらい、ゆっくり解説を読む余裕がない、博物館は敷居が高いような印象


●展示利用支援ツールの試作・検証
調査から分かった「0~2歳児と親」の利用実態は、
・「子の成長を実感(親)」「歩くこと・のぼりおりで自分を試す(子)」など、展示以外でも楽しんでいる
・「文字解説を読む余裕がない(親)」「目線が低いので床に目が行きがち(子)」など、館が想定した展示への関わりはむずかしそう
ということでした。

つまり、せっかく来館してもらっても、展示を利用してもらえていないのではないか。ということが見えてきたのです。




そこで、「0~2歳児と親」にもっと展示に関わりをもってもらうため、既存の展示を支援ツールで補完しよう。ということになりました。


今回開発した支援ツールは、
・高さを合わせるための「ステップ
・子どもの注目をひき、アンヨ促進や誘導のための「床シール
・文字解説を読む余裕が無くても、一緒に楽しい気持ちになれる「虫のうた
です。
親子の目線・気持ちがいっしょになるしかけ」を目指し、館内に配置してみました。

支援ツールの効果については、12月~2011年1月に、来館者23組にアンケートで検証。70%以上の保護者から「展示が利用しやすくなった」という声をいただきました。



ミュージアムならではの子育て支援とは?
こそっと研の研究テーマである「ミュージアムの子育て支援機能」について、支援ツールの検証アンケートでも質問してみたところ、
・小さい子が遊べ、いろいろな体験ができる場
・出会いの場、母親と社会の接点となる場
・子どもの学びや成長のための場
・親子の交流ができる場
であってほしい、などの答えが。

年度末にミュージアム関係者にお集まりいただいた座談会では、
・0~2歳の子どもに対する支援=親支援
・館種によって乳幼児連れ来館者の来館理由や、他の利用者との“共存しやすさ”が違う
・ミュージアムという日常と違う場所で、子も親も互いの新たな一面に気づける
などなど、「ミュージアムの子育て支援」を考える際のポイントとなる意見が多々出されました。

ミュージアムができる“子育て支援”って何だろう。こそっと研の追究は続きます。